大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所 昭和32年(行)12号 判決 1957年12月16日

原告 遠藤俊英

被告 新発田市長

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実ならびに理由

原告訴訟代理人は「被告が昭和三十二年十月十日、新発田市議会の同意を得たとして野沢順吉を同市助役に選任した行為を取り消す。」との判決を求め、その請求の原因として「被告は昭和三十二年十月十日、新発田市議会において同年九月二十一日その同意の議決があつたとして野沢順吉を同市助役に選任したが、同議会は同日右助役選任の同意を求める議案を議決するに際し、議員総数三十六名中欠席一名従つて出席議員数三十五名のところ、議長を除く三十四名について選任同意の可否を決する投票を行つた結果、可とする者十四票、否とする者十四票、白票六票となり、この白票を無効とすることに全員異議がなかつたので可否同数の場合とし、議長の決する所に従い選任に同意することを可決したものである。しかしながら右の場合は可否同数とはいえ、可とする者及び否とする者がいずれも出席議員の半数に達しなかつたものであるから、地方自治法第百十六条第一項後段の規定により議長の決するところによることは本来許されないところであり、右議決はしよせん法律の解釈を誤つてなされた違法のものといわなければならず、これを前提としてなした前記助役の選任も又違法のものというべきである。よつて原告は新発田市内に在住する住民としてその取消を求めるものである。」と述べ、なお、「原告は本訴提起に先だち訴願の裁決を経ていないが、これを経ないことについては、次のような正当な事由があるものである。すなわち、(一)助役は市長を補佐し、その職務を代理するなど重要な職務権限を有するからその地位に関する争は早急に解決しなければ法的不安定による混乱を惹起するおそれがあり、訴願の手続をふむ余裕がなく、又(二)前記の本件議決のような場合について、既に自治庁は議決が有効なる旨回答しており、行政実務はこれに従つて処理されるため、訴願を提起しても直ちに排斥されることは明らかであるから、その手続をふむことは無意味である。」と述べた。

被告は請求棄却の判決を求め、「原告主張の事実は全部認めるが本件助役の選任は違法ではない。」と述べた。

そこで按ずるのに、被告が昭和三十二年十月十日、新発田市議会において同年九月二十一日その同意の議決があつたとして野沢順吉を同市助役に選任したことは当事者間に争いがない。

ところで、原告は右議決は法律の解釈を誤りなされた違法のものでこれを前提とする右助役の選任行為も違法であるのでその取消を求めるというのであるが、市長の助役選任なる処分により違法に権利を侵害されたとする者は、地方自治法第二百五十五条の二の規定にのつとり(都道府)県知事に訴願しその裁決を経た後でなければ裁判所に出訴することは許されないものであるところ、原告が本訴を提起するについて右訴願の裁決を経ていないことは原告において自認するところであり、しかも原告主張のような理由だけでは、いまだもつて、行政事件訴訟特例法第二条但書にいわゆる訴願の裁決を経ないで訴を提起するにつき正当な事由があるものとすることはできないから、原告の本件訴はいわゆる訴願前置の要件を欠く不適法な訴として却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三和田大士 唐松寛 岡田光了)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例